ロベール・ソエタン

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BBC Music Magazine Collection Vol.18 No.3 - MM312

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セルゲイ・プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲No.2は、1935年12月1日にマドリードで初演された。初演者はロベール・ソエタンで、伴奏はエンリケ・アルボスの指揮するマドリード交響楽団であった。このCDに収録されているのは、その初演から一年後である1936年12月20日、ロンドンのクイーンズ・ホールでのソエタンの演奏の記録である。伴奏を務めるのはヘンリー・ウッドの指揮するBBC交響楽団。当時の協奏曲録音の常として、独奏ヴァイオリンを強調するバランスでの録音なのだが、意外と音源の保存状態がよく、ウッドの伴奏もしっかり聴き取れる。1940年代後半の録音と言われても違和感のないクオリティだ。

ヴァイオリンを弾くソエタンは、1997年に100歳で亡くなったが、95歳まで現役を貫いたフランスのヴァイオリニストである。11歳の頃からウジェーヌ・イザイにヴァイオリンを学び、13歳の時にはリシュアン・カペーに師事している。演奏活動を開始したのは16歳のときだった。フランス近代音楽の生き字引のような人だったのだが、録音活動にそもそも興味がなかったのか、このCDが登場するまで、入手できる彼の音源は見つからなかった。ソエタンの音源の存在が確認できたというだけでも、このBBCミュージック・マガジンの付録CDは、歴史的音源に興味を持つ人には刺激的だ。

ソエタンとプロコフィエフの出会いは、1932年にまで遡る。イーゴリ・ストラヴィンスキーの懐刀であったサミュエル・ドゥシュキンがソエタンとプロコフィエフのヴァイオリン2挺用のソナタのフランス初演を行い、プロコフィエフもそれに立ち会っていた。しばらく後に、ソエタンのヨーロッパ演奏旅行にプロコフィエフが伴奏者として帯同することになったのだが、1935年初頭にソエタンのファン・クラブが、ソエタンに1年の演奏独占権をもたせるという条件でヴァイオリン協奏曲を書くように依頼を持ちかけてきた。ドゥシュキンと一緒に自作のフランス初演をしてもらった恩義もあって、プロコフィエフは作曲を快諾し、旅行の合間に作品を書き、マドリードでの初演に漕ぎ着けたというわけである。パリで第1楽章の主題を完成させ、ソ連南西部のヴォロネジで第2楽章の主題を着想し、バクーでオーケストレーションを仕上げたという工程からは、完全帰国に向けたプロコフィエフの足跡にも思いを馳せることが出来る。

プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲No.2は、同No.1に比べて保守的な様態を示す。つまるところ、19世紀ロマンティークの協奏曲を下敷きにした作品として捉える向きもある。こういうアプローチに立てば、第2楽章は叙情的で甘美なメロディを歌い上げることになるわけだが、ソエタンのヴァイオリン独奏は、そうした甘美さに浸っていない。